世話人:中村 卓郎(公益財団法人がん研究会 がん研究所)
第11回日本病理学会カンファレンス2014六甲山を8月1日(金)、2日(土)に兵庫県神戸市六甲山ホテルにて、「イメージング技術の進歩と明日の病理学研究・病理診断」をカンファレンステーマに掲げて開催しました。同地での開催は2013年に続いて2回目となりましたが、天候も大きく崩れることはなく、病理学会外からの招聘講師5名と参加者92名(病理学会会員講師5名を含む)ならびに技術セミナーに参加された住商バイオファーマ関係者5名の合計102名のご参加をいただきました。
1. 開催の目的と概要
個体や組織・細胞・小器官の形態観察は、ライフサイエンスの研究にとって欠かせない手段です。生化学や分子生物学が格段に進歩した結果、疾患の本態の理解が進み、疾病の診断に役立つ情報量が膨大なものとなった現在でも、最終的な診断・判定が形態観察に立脚している事実は揺るぎません。
分子イメージング、ナノテクノロジー、光学技術も年々進歩を遂げており、形態観察の手段は多様性に富むようになっただけではなく、ライフサイエンスにおいて広い分野の研究者に門戸を開くようになっています。疾病研究においても、先進のイメージング技術の応用は目覚ましく、疾患の形態学的リテラシーは病理学者の独占するところではありません。
そこで、本カンファレンスでは、イメージング技術の革新とその応用について、蛍光プロープ開発、先進的顕微鏡技術、分子イメージング、in vivoイメージングの各分野における第一線の研究者に講演をしていただきました。病理学分野において最新のイメージング技術を活用されている講演も加わりました。さらに、関連する技術基盤の紹介の意味で、Perkin Elmer社のVivek Patil博士からインビボイメージングの最新のテクノロジーを使った研究成果を報告していただきました。また、病理学・医学生物学研究に携わる若手研究者から応募があった25演題から成るポスターセッションを開催し、ショートプレゼンテーションとその後のディスカッションを繰り広げました。ポスター発表結果をポスターコーディネーターの先生方に評価していただき、最優秀ポスター賞1題、優秀ポスター賞2題を選び、表彰しました。また、ポスターセッションに引き続いて、多くの参加者が懇親会で研究や診断活動について活発な討論を繰り広げました。
今回のレクチャー講師と演題名は以下の通りです(発表順、敬称略)
- 広田 亨(公益財団法人がん研究会がん研究所)
- 「ライブ・セル・イメージング解析がもたらすがん研究の新展開」
- 青木 一洋(京都大学大学院医学研究科)
- 「イメージングによる細胞内シグナル伝達系と分子標的薬抵抗性の定量解析」
- 清川 悦子(金沢医科大学)
- 「ライブイメージングで生体内情報伝達を視る」
- 浦野 泰照(東京大学大学院薬学系研究科)
- 「蛍光プローブの設計開発による術中迅速ライブ疾患イメージング」
- 佐谷 秀行(慶應義塾大学医学部)
- 「イメージングを用いたがん幹細胞の性状解析」
- 鶴山 竜昭(京都大学医学部附属病院)
- 「病理組織を用いたイメージング研究と展望」
- 渡辺 恭良(理化学研究所ライフサイエンス技術基盤研究センター)
- 「PET分子イメージングによる創薬・医療イノベーション」
- 近藤 英作(愛知県がんセンター研究所)
- 「新規ホーミングペプチドを応用した生体内腫瘍イメージング技術の基盤的研究」
- 高松 哲郎(京都府立医科大学大学院医学研究科)
- 「病理学と先端フォトニクス」
- 上野 博夫(関西医科大学)
- 「多色細胞系譜追跡法の幹細胞・発生研究への応用」
イメージング技術講習セミナー
- Vivek R. Shinde Patil (Perkin Elmer Inc)
- Translational imaging technologies: providing insightful biological applications from the bench to the clinic
一般演題ポスター発表は25題で、以下の3名にポスター賞が授与されました(敬称略)
最優秀ポスター賞 | 山田 洋介(京都大学iPS細胞研究所) |
優秀ポスター賞 | 野島 聡 (大阪大学大学院医学系研究科) |
優秀ポスター賞 | 田中 美和(公益財団法人がん研究会がん研究所) |
2. 参加者(92名)、(病理学会会員講師を含む)の内訳について
日本病理学会会員・非会員、都道府県(所属施設)の内訳は、下記の通りです。学生(大学院生・学部学生)としての参加登録者は25名で、35歳以下のポスター発表者は14名でした。
会員 | 非会員 | 合計 | 会員 | 非会員 | 合計 | 会員 | 非会員 | 合計 | |||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
北海道 | 0 | 1 | 1 | 岐阜県 | 3 | 0 | 3 | 兵庫県 | 9 | 1 | 10 |
宮城県 | 2 | 0 | 2 | 石川県 | 1 | 0 | 1 | 岡山県 | 2 | 1 | 3 |
栃木県 | 2 | 0 | 2 | 三重県 | 1 | 0 | 1 | 広島県 | 1 | 3 | 4 |
群馬県 | 0 | 1 | 1 | 福井県 | 3 | 1 | 4 | 山口県 | 2 | 0 | 2 |
茨城県 | 1 | 0 | 1 | 京都府 | 3 | 1 | 4 | 愛媛県 | 3 | 0 | 3 |
東京都 | 17 | 7 | 24 | 大阪府 | 5 | 1 | 6 | 福岡県 | 4 | 0 | 4 |
長野県 | 1 | 0 | 1 | 奈良県 | 0 | 1 | 1 | 長崎県 | 2 | 0 | 2 |
愛知県 | 8 | 1 | 9 | 和歌山県 | 1 | 0 | 1 | 熊本県 | 2 | 0 | 2 |
合計 | 73 | 19 | 92 |
3. アンケート集計結果(回答数43)について
a) 性別:男性28、女性13、未回答2
b) 年齢:[年代別]
20代8、30代16、40代7、50代9、60代4、未回答1
c) 所属機関:
大学30、研究機関4、病院7、その他2
d) 今回のカンファレンスの参加動機:
- テーマや内容が興味深かった(18名)
- 前回または以前参加して有意義だった(7名)
- 自分の研究に役立てるため(3名)
- 教授に勧められた(3名)
- 同僚が発表するので(2名)
- 六甲山で行われるから(2名)
- 広く情報を得るため
- 世話人からの紹介
- 病理学の最先端に触れるため
- 形態学に興味があった
- 若手発表の機会があるので
e) 次回カンファレンスも参加したいと思うか
すごく思う 16、思う 23、あまり思わない 0、思わない 0、分からない 3、未回答 1
f) 意見・感想:
- イメージング技術とその応用について詳しく聴けてとても勉強になった(10名)
- テーマが意欲的で面白かった(3名)
- 運営がスムーズで良かった(3名)
- 講演のクオリティーが高く、刺激的だった(3名)
- 病院勤務の病理医にも広く参加して欲しい(2名)
- イメージング技術を自分の研究にも取り入れたくなった
- 少人数の集まりだったので、情報収集や共同研究のシーズ作りに役立った
- 夏休み期間中は他の病理学会関連行事とも重なるので、時期を考慮すべき
- アットホームな会で新鮮だった
- 密度の高いディスカッションが出来た
- 1人部屋にして欲しかった
- ポスターセッションの構成が素晴らしかった
- 充実した2日間だった
- ポスターのショートプレゼンテーションが大変良い。その後はフリーディスカッションが良いと思った
- 発表のレベルが高く、自分の研究に新たなモチベーションとなった
- 往路の貸し切りバスの時間の連絡がなかった
- 異分野交流の重要性を感じた
- 発表によってはもっと分かり易く説明して欲しいものがあった
- イメージングの可能性、特に生きたままの状態での観察と術中迅速への応用が印象的だった
- 臨床と基礎研究の橋渡しになる素晴らしい会だった
- 新しい力を感じる発表が多く、面白かった
- 若手の参加が多く安心するとともに、病理診断にも来て欲しいと思った
- 基礎も臨床もレベルが高く刺激になった
- 思い出に残る素敵な会だった
- 将来必要とされる技術や実験系の構築に目を向ける大切さを学んだ
- イメージングは遠い存在に思っていたが、想像以上にパワフルで重要なツールであると痛感した
g) 今後取り上げて欲しいテーマ
- 幹細胞(3名)
- 再生(2名)
- 炎症(2名)
- 発生学と病理(2名)
- がん幹細胞(2名)
- 神経
- 概日リズム
- 細胞周期と非対称分裂
- 形態を基盤とした分子細胞生物学
- がんゲノムと病理学
- 病院病理医が行っている研究
- 病理学教育
- がん細胞の多様性
- システムバイオロジー
4. 総括と今後のカンファレンスへの課題
日本病理学会カンファレンスは、今年で11回目を迎えました。この会は、80〜100名程度の出席者を対象としたアットホームな会で、毎年特定のテーマの下、病理学会の内外から研究テーマに関連する分野をリードする研究者を講師にお招きして、最先端の研究を紹介する講演を聴き、病理学会員の研究及び診断に資する狙いを持っています。第9回までは、毎年国内各地で開催されてきましたが、第10回より神戸市の六甲山ホテルに固定化して毎年夏に開催することになりました。
<テーマ>
今回のテーマである「イメージング」は、日本病理学会研究推進委員会において第11回カンファレンスのテーマとしてご推薦頂いたものです。イメージングは、形態学的解析を専門とする病理医・病理研究者にとっては馴染みの深い印象がありますが、反面、生きた細胞や動物個体の動きのあるイメージを捉える研究は、充分活用されていない印象がありました。ライブセルイメージングやインビボイメージングを実行するための機器や試薬、テクノロジーが飛躍的な進歩を遂げている今日でもあり、タイムリーなテーマであったと思います。この点は、参加者のアンケート結果にも表れていましたし、活発な質疑・討論からも伺うことが出来ました。
<参加者>
参加者総数は、昨年と比較して11名減少したものの、92名(内病理学会員79%)に達し、カンファレンスの運営や活発な雰囲気の形成には充分な数であったと感じました。参加者の分布は、全国に及んでおりましたが、開催地との距離的な関係から北日本、東日本の会員については、より積極的な呼びかけが必要と思われました。また、ポスター発表は25演題と、スペース的には上限の演題数が集まり、若手研究者の意欲的な発表が多かったと感じました。
<レクチャー>
レクチャーに関しては、10名の講師全体にわたって、参加者から好評を頂きました。イメージングがテーマであるだけに、動画や高解像度の画像を駆使したプレゼンテーションが続き、聞き飽きることのない2日間となりました。テーマは大きく分けて、ライブセルイメージング、インビボイメージング、蛍光プローブを初めとする技術基盤の3つから成りましたが、何れの講演も技術紹介に留まらず生命現象や病態解明を理解する上で大変有用であったと思いました。講師の先生方には、夜遅くまでディスカッションにも参加して頂き、発表範囲を超える研究内容や技術を教えて頂きました。
<一般ポスター演題>
今回で3回目となるスライド3枚、90秒間のショートプレゼンテーションは好評であり、発表者にとってもまとめ方を工夫するなど勉強になることが多かったとの印象です。一方で、25演題を5セクションに区切ったプレゼンテーションは、他の演題をゆっくり見ることが出来ないなどの声もあり、次回は考慮すべき点に思われました。コーディネーターの先生方には、優秀ポスター賞の審査員もお願いし、大変お世話になりました。
<技術セミナー>
今回、日本病理学会カンファレンスとしては初めての企画となる技術セミナーを第1日の夕刻に開催しました。今回のテーマであるイメージング研究には、最新のテクノロジーの活用が不可欠であり、インビボイメージングや画像解析技術に関する機器・ソフトウェアを幅広く紹介されている住商ファーマインターナショナル株式会社の協力を得て、機器の展示とセミナーをして頂きました。セミナー講師として米国Perkin Elmer社からVivek Patil博士にお話し頂きました。単なる技術紹介に留まらず、一流誌に掲載されて間もない最新の研究成果の発表があり、参加者から大変評判が良かったようです。カンファレンステーマにもよりますが、研究に役立つ最新テクノロジーを紹介する技術セミナーは今後も考慮されて良いと考えます。
<会場>
今回が2度目の開催となった六甲山ホテルですが、昨年の経験が運営には大いに役立ちました。但し、円滑な運営は昨年同様、横崎宏先生を初めとする神戸大学病理学講座のメンバーの献身的なご支援があってのことでした。主催者が、六甲山ホテルから遠隔地である場合は、同伴出来るスタッフの数も限られることが予想されますので、今後も神戸大学の皆様に負担をお掛けすることが懸念されます。今回は、前回に比べると1人部屋の数を増やすことが出来ましたが、それでも若手を中心として相部屋をお願いすることになりました。部屋の確保交渉とともに、全て1人部屋とするには参加費の値上げも必要になりますので、この点は今後検討を要する課題と思われました。
5. 謝辞
今回のカンファレンス開催にあたり、ご支援頂きました日本病理学会に感謝申し上げます。準備に際しては、日本病理学会研究推進委員会、日本病理学会事務局に様々なご助言・ご指導を賜りました。講師の先生方には、多忙なスケジュールの中でカンファレンス日程を通してご参加頂き、貴重なディスカッションや若手研究者に対するアドバイスをして頂き感謝申し上げます。また、横崎宏先生を初めとする神戸大学大学院医学研究科病理学講座の先生方には、運営に当たって大変ご尽力を頂き感謝申し上げます。最後になりますが。本カンファレンスの計画から運営まで手伝って下さった、がん研究会がん研究所発がん研究部のメンバーに深く感謝致します。